痙攣剤


薬学博士の船山信次さんは、書籍(『図解雑学 毒の科学』2004 ㈱ナツメ社)において、毒を単純に恐れるのではなく、毒を知り、その恩恵を受けている事も自覚する必要性を説いています。
実際、猛毒とされているものであっても、それが有効に活用され、私たちの生活に役立てられている事例は多々あります。

マイトマイシンCが、変異原性を確認する試験で活用されている事は、私たちの生活に多大な恩恵をもたらしています。
肺繊維症誘発剤としてのブレオマイシン活用は、間質性肺炎の病態を解明し、画期的な治療法開発に結びつく可能性があります。


現在、小児がんの治療剤として使用されている、アクチノマイシンD(商品名 コスメゲン)も、研究用試薬として利用されています。
研究内容によって、着目される作用が異なりますが、動物への投与で発症する症状の研究も行われていました。

 

はじめに
Actinomycin DはViningとWaksmanによってStreptomycesから分離された制癌剤であり、その作用機転はこれが生体内のDNAと結合することにあると考えられている。
(中略)
本研究においては、髄液内に与えられたActinomycin Dの哺乳動物中枢神経系に対する作用、特にこの物質により誘発された痙攣の経過とその機構についての脳波学的な検討を行なった。
(165頁)

要約
Actinomycin Dをイヌの髄液内に投与すると、3~5日の長い潜時で動物は全身痙攣を起こした。
この痙攣量は0.025mgであり,それによって42例中33例に痙攣が見られ、その平均潜時は89.5±10時間であった。
痙攣型は定型的な全身痙攣であり、動物は激しく痙攣を繰返したのち全例死に至った。

考察
…Actinomycin D痙攣は(中略)症候性てんかんの機構解明に,電気生理学、生化学あるいは形態学など広範な研究手段の下において、重要な意義を持つであろうと推測され、今後多くの領域におけるこれらの応用的研究が期待される。
(178頁)


『Actinomycin Dの高等動物中枢神経系に対する作用』
岡山大学医学部脳代謝研究施設機能生化学部門
(主任:森昭胤教授)
平 光雄
昭和48年6月15日受稿


ある薬剤の性質に着目し、その利用によって特定の疾病が解明され、有効な治療法開発に繋がる可能性があるとするならば、重要で意義のある研究だと思います。


一方、このアクチノマイシンDが、古くから小児に投与され、これからも投与され続ける事に関しては、議論があってしかるべきです。


発癌物質と制癌剤の第一は、「イニシエーター」といわれるものである。
その一つは遺伝情報であるDNAに化学構造が似ていて、塩基対の間に挿入されるものであり、強力な発癌物質が多い。
アフラトキシンB1、アクチノマイシンD、ベンツピレン、卵胞ホルモン、DESなど、化学合成薬品に多い。
発癌物質の王様ともいうべきものであり、化学構造式をみれば、発癌物質だと見当がつく薬物で、万全の注意を怠ってはならない。


『毒物雑学事典―ヘビ毒から発ガン物質まで』 (1984年)
㈱講談社 120頁
医学博士 大木幸介

 

「発癌物質の王様」。
これは決して誇張ではありません。
アクチノマイシンDの本質を表す、見事な文章表現です。

 

Rats and Mice: Cancer Test Summary
TD50 (mg/kg/day)
Actinomycin D
(CAS 50-76-0)
Rat 0.00111
Nitrogen mustard
(CAS 51-75-2)
Rat 0.0114
Ethyl alcohol
(CAS 64-17-5)
Rat 9110
The Carcinogenic Potency Database (CPDB) http://potency.berkeley.edu/
データの一部を、引用して表を作成
※Ratの後に続く数字が、小さいほど発癌性が強い

 

TD50(50%発癌量)で示される数値は、薬剤の投与によって腫瘍が縮小するという事象が、いかに強力な発癌性によってもたらされているかを示す目安となります。
基本的に抗がん剤は、発癌物質の王様である、ということができます。

抗腫瘍作用あれば、発癌作用あり。
抗がん剤の投与によって腫瘍が縮小したということは、それだけ発癌性が明確に作用したともいえます。
もちろん、抗腫瘍作用によって、メリットが得られるのは事実でしょう。
一方、反動が予想以上に早く生じる可能性も考慮されなければならず、いずれにしても肝心な事は事前説明が必須です。
添付文書では、腫瘍縮小効果を評価する用語として、寛解率、著効率、有効率、奏効率などが用いられていますが、その評価期間がいずれも4週間である事は、抗がん剤批判派にとっては周知の事実です。


完全寛解/著効(CR;complete response)
腫瘍が消失,新病変の出現がない状態が4週以上持続

部分寛解/有効(PR;partial response)
腫瘍が50%以上縮小,新病変の出現がない状態が4週以上持続


『がんの化学療法と看護 No.02』
看護に役立つがん化学療法の知識 5頁
有吉寛(県立愛知病院/院長)
提供:ブリストル・マイヤーズ㈱
企画・発行:株式会社 協和企画
2003年2月作成 コード:CN002

 

この「4週間」という肝心なキーワードは、添付文書にすら記載されておらず、これをがん専門医が患者さんに伝える可能性は極めて低いと考えられます。
情報が届いていないがん患者にとって、医師から薬剤の高い有効率を示されれば、その薬効に相当期待し、化学療法を受ける決断をする方もおられるでしょう。
しかし抗がん剤において有効率は、同確率以上で発癌性が作用するともいえます。
抗腫瘍作用が発癌作用によるものである事、そして腫瘍縮小効果の評価期間が期待していたよりも短い事を、患者さんが後から知ってショックを受けたとするならば、その全責任が説明義務を怠ったがん専門医にある事はいうまでもありません。
ショックを受けた患者さんが化学療法後に再発し、がん専門医に釈明が求められた場合、単にがんの悪化を防げなかったという説明で納得するでしょうか。
それとも、二次発癌と考えられる、という説明なら納得するのでしょうか。

患者さんは、「発癌物質の王様」によってもたらされた、一次癌と解釈するかもしれません。

 


変異原陽性対象群腫瘍促進因子