がんの発端


前ページで述べた慢性炎症は、以下の図のようなプロセスを経て発症すると考えられています。

 


細胞の傷害に始まり、私たちが日常的に経験する急性炎症となり、その持続によって慢性炎症に進展するとされています。
また、必ずしも急性炎症が先立たないともされています。

 

急性炎症は急激に起きて通常は持続時間も短い炎症で、慢性炎症はジワジワとあるいはダラダラと起きている炎症です。
一般的には急性炎症の経過は”時間”あるいは”日”の単位であり、慢性炎症では””あるいは””の単位ですが、明確な定義はありません。
では、急性炎症が治らないと慢性炎症になっていくのでしょうか?
それとも、両者の原因は違うもので、急性炎症を経ずに初めから慢性炎症を起こすことがあるのでしょうか?
答えは「どちらの場合もある」です。


『図解入門 よくわかる病理学の基本としくみ (メディカルサイエンスシリーズ)』 (2010) 秀和システム 212頁
日本医科大学客員教授 田村浩一


「月」あるいは「年」の単位で持続する炎症が慢性炎症であるなら、がんの摘出手術によっても慢性炎症が引き起こされる可能性があります。
まず、手術侵襲によって炎症性サイトカインの産生が誘導されます。


ストレス侵襲を受けると生体は、心拍出量増加、血管収縮、高血糖といった全身的反応を起こします。
(中略)
同時に、サイトカインという細胞間で情報を伝え合う物資が分泌されます。
代表的なサイトカインには、TNF、I L(インターロイキン)-1、I L - 6、I L - 8、I FN(インターフェロン)などがありますが、
(中略)
その中には、侵襲時の生体反応に深く関係しているTNF - α(腫瘍壊死因子)やI L -1などの炎症性サイトカインがあります。
(中略)
これらの炎症性サイトカインは、発熱や倦怠感といった全身症状(いわゆるインフルエンザ様症状)を引き起こすと共に、好中球を活性化するなど、全身性炎症反応を亢進させていきます。


『病院薬剤師さんのための情報誌 Pallette』
2003年5月 Vol.36 8頁
慶應義塾大学医学部救急医学教授 相川直樹
発行 大塚製薬㈱

 

術後にある程度回復し、自覚症状が軽快したとしても、炎症が消失しているとは限りません。
腫瘍切除後の高サイトカイン状態は、数年にわたって継続する事もあるとされています(ニュートリー㈱ http://www.nutri.co.jp/ 『 [4] がんと炎症性サイトカイン[proinflammatory cytokine] 』)。

炎症性サイトカインへの曝露は腫瘍形成的であるとされていました(前出 『炎症と癌』 常翔学園 摂南大学薬学部 病理学教室 3頁)。
慢性炎症は発癌プロモーターとして作用するとされていました(前出 『発がんスパイラル』 News Letter Vol.1 2011.10 18頁)。

がんの摘出手術は「月」あるいは「年」の単位でプロモーション作用を誘導しうる。

この事は、術前、術後に実施される抗がん剤(イニシエーター)投与が、発癌リスクに大きな変化をもたらす可能性を意味します。

発癌二段階説を証明した、動物実験の文献を引用させて頂き、説明を試みます。

 

 

実験
処理方法
腫瘍
1
+
2

-
3

□□□□□□□□□□□

-
4

■□□□

++

 

記号
作用
物質名
イニシエーター 高濃度(DMBA)
イニシエーター 低濃度(DMBA)
プロモーター クロトン油

 

(実験1) イニシエーターとして強力な発癌作用を有するDMBAをマウスの皮膚に塗ると腫瘍が発生する。

(実験2) 微量濃度のDMBAを1回塗っただけでは腫瘍は発生せず。

(実験3) プロモーターを繰り返し塗っても同様に腫瘍の発生は認められない。

(実験4) 腫瘍を生じさせない微量濃度のDMBAを1回だけ塗った後,プロモーターを繰り返し塗り続けると腫瘍が発生する。


『発癌プロモーターホルボールエステルの化学 ホルボールの全合成』
公益社団法人 日本農芸化学会
化学と生物 Vol.31, No.5, 1993
古源寛(三共 化学研)
300頁 図1 発癌二段階説を証明する実験
改変引用

 

がんの摘出手術により、慢性炎症が発生している状態を(実験3)と見立てる事ができます。
慢性炎症が治まっていない状態で、一度でも抗がん剤(イニシエーター)の投与を受けると、(実験4)の結果となる可能性があります。

(実験4)は最も発癌リスクが高く、微量濃度のイニシエーターを塗布後、プロモーターの継続塗布により、短期間で強力な発癌作用(++)を誘発しています。

なお、過剰なCT検査が悪影響をもたらす可能性も無視できません。
放射線の発癌はイニシエーターとして作用するとされていました (前出 『医学教育における被ばく医療関係の教育・学習のための参考資料』 28頁)。

ただ、プロモーション作用は「可逆的」とされています。
年月が経ち、慢性炎症が消失すれば、プロモーション作用も消失するでしょう。


もちろん、術前、術後に実施される化学療法であるからこそ、より大きな抗腫瘍効果が得られる、とも考えられます。
しかし、がんの摘出手術に発癌を助長する可能性があれば、それも事前説明が必要です。
患者さんにはデメリットをありのままに伝え、その上で、大いにメリットを強調すべきでしょう。

 


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